教育時報社

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一級資料で語る
日本国憲法の本当の生い立ち


日本国憲法を生んだ密室の九日間』
― GHQと日本国憲法 ―



2017.5.12



 戦後70余年。憲法問題が政治日程にあがり、改憲派対護憲派の憲法論議も盛んだ。多くの人々にとって無視できない日本国憲法の生い立ちが、この本の中で明らかにされている。

 著者は、映像制作会社で長年テレビドキュメンタリー番組を手がけてきたドキュメンタリー工房の鈴木昭典社長。鈴木氏は、米国国立公文書館に足を運ぶ一方、存命するGHQの元幹部へのインタビューを重ね、貴重な証言を引き出している。

 これら第一級の資料をもとに映像化された同名のドキュメンタリー映像作品は、放送文化基金賞、芸術祭賞、民間放送連盟賞、ギャラクシー賞など多くの作品賞を受賞している。


「GHQによってつくられた憲法」???


 「日本国憲法はGHQによってつくられた憲法だ」とよくいわれるが、日本の敗戦直後の昭和20年10月、GHQ(占領軍司令部)マッカーサー元帥は日本政府に対し、新憲法草案を作るよう再三要請を出していた。これに対して当時の日本政府幣原喜重郎内閣は、松本烝冶国務大臣を委員長とする憲法調査委員会を政府内に立ち上げ、新憲法草案作りを始める。


 だが、その内容を拾い上げてみると、

第一条「日本国は君主国とする」

第二条「天皇は君主にしてこの憲法の条規により統治権を行う」

第八条「天皇は公共の安全を保持し、またその災厄を避くる為の必要により、帝国議会審議委員会の議を経て法律に依るべき勅令を行す」

第二章臣民の権利義務 第十九条「日本臣民は法律命令に定むるところの資格に応じ、均しく官吏に任ぜられ及びこの他の公務に就くことを得」

第二十五条「日本臣民はその住所を侵さるることなく公安を保持する為必要なる制限は法律の定むるところに依る」

―― など、基本的に明治憲法の一部修正にとどまるものだったという。敗戦当時、日本は国際的に厳しい環境に立たされていた。が、当時の日本政府にはその認識が欠けていたことを、著者はまず指摘している。

 日本政府による草案提出を受けて、知日派のGHQ要員が対案をまとめることとなった。

 GHQ民政局には、戦前日本の大学で教鞭をとっていた教授出身者や米国の大学教授出身者・弁護士、また連邦議会議員や政府機関の出身者、さらには戦時中から、ハーバードなどアイビーリーグの各大学で日本の占領政策立案に備えて養成されてきた専門家たちが集められていたことなども、意外と知られていない。


「自衛権の放棄」の行間


 実は当初、マッカーサー元帥が考えた対案の原案では、九条に「自衛権の放棄」が謳われていたらしい。が、「国家に固有の自衛権を否定するようなことを憲法上に明記するのは、非合理で不適当」としてこの部分を独断でカットした人物がGHQ内にいた。元GHQ幹部のケーディス氏。

 鈴木氏は、存命中のケーディス氏へのインタビューで「憲法九条の行間には自衛権を含んでいる。対案では攻撃を撃退できないとは謳っていないわけで、国際的な常識である自衛権をわざわざ否定する内容を盛り込むのは不適当」との趣旨の証言を引き出しており、大いに注目される。
 
 結果的に、GHQが出した対案を基本に日本政府の憲法調査委員会で練られた日本国憲法は、国民とともに歩む象徴天皇としての皇室のあり方、平和と人権、民主主義を柱に据えたものとなり、当時の日本に対する批判的な国際世論を納得させる大きな原動力にもなったようだ。

 同時にGHQにとっては、戦前のように極端な思想の権力者が、皇室を利用できないようにすることを最大の関心事と捉えていたらしい。

 一方、マッカーサーが新憲法を急いだ背景には、第二次大戦の戦勝国を中心とする極東委員会の動きがあり“天皇の戦争責任”の問題化を事前に押さえ込もうとするマッカーサーの思惑も感じられる。当時の日本政府の憲法調査委員会が、当初意識的に東京から日本全体を俯瞰する憲法草案を作ったとするなら、GHQが日本政府に提案した憲法草案対案は、当時の極東委員会を中心とする国際的視野から日本を俯瞰したものだったといえる。そうした対比も自ずと見えてくる。

 憲法草案をめぐり、敗戦後の日本政府とGHQとの間でどのようなやりとりがあったのか、GHQの対案草案づくりにまつわる密室の九日間が、驚きをもって明らかにされていく第一級のドキュメンタリーだ。

 『日本国憲法を生んだ密室の九日間』鈴木昭典著/角川ソフィア文庫 定価1,000円(税別)



≪関連本≫  
『敗北を抱きしめて』(上・下巻)ジョン・ダワー著/岩波書店

 

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