教育時報社

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≪インタビュー≫

「99人は,なぜ任命?」 
~日本学術会議の会員候補者任命拒否問題をめぐって~

京都芸術大学客員教授・寺脇研氏に聞く

20.10.13





 日本学術会議が推薦した会員候補者105人のうち、6人が任命を拒否された。菅新政権の発足間もないこの時期、世間的に高い関心をよんでいる。文部科学行政に精通した現・京都芸術大学客員教授の寺脇研氏に問題点をたずねた。<編集部>



―― 日本学術会議のメンバー任命拒否という事態は、教育界にも波紋をよんでいます。

寺脇:
誰が考えてもおかしな話でしょう。法律論上も、学術会議の推薦に基づいて総理大臣が任命することになっており、“この人は気に入らないから任命するのをやめよう”などといったことはできません。今回、内閣が行ったことは、重大な違法行為というほかありません。


―― 105人の会員候補者のうち6人が任命を拒否されたわけですが。

寺脇:
なぜその6人の任命が拒否されたのか、その一方で99人はなぜ任命されたのか、政府に対して明確な説明を求めていく必要があると思います。99人の中にも、例えば安保法制に反対した方はいらっしゃるでしょうし、専門分野の評価の問題なども含め、きちんとした報道発表とさらなる検証が求められると思います。

 また今回、明確な法律違反にもかかわらずこのような決定が行われた背景として、学術や学識に対する敬意(リスペクト)が根本的に欠けている点も気になります。


―― 任命拒否の理由づけとして「日本学術会議の会員は公務員だから」とも言われていますが。

寺脇:
学術会議の委員は、その方の学識や能力で決められるものであって、「文部科学省の事務次官を誰にするか」というような単なるテクノクラートの問題とは意味が違います。理由づけは、問題の核心をわざと外しているように感じられてなりません。


―― 菅総理の感覚では、両者に変わりはないと。

寺脇:
戦後民主主義教育のもとでは、権威を全否定するような考え方が確かにありました。“あなたも私も同じ人間”という考え方が行き過ぎてしまったために、「この人はすごいなぁ、この人には敬意を払わなきゃいけないなぁ」というような意識まで失われているのが今の時代なのかもしれません。

 現実に、芸術においても表現の自由を踏みにじるようなことが起き、学術についても今回のように学術的識見を踏みにじるような行為が平気で起こっています。


―― 今回の問題をめぐって国会論戦が始まりました。

寺脇:
ただ、一方が「自分たちには学問の自由、表現の自由が認められているのだから自由にやってよい、―― 以上終わり」と言えば、もう一方も「それは全然当たらない、―― 以上終わり」みたいなやりとりでは意味がないと思います。

 そうではなしに、なぜ学術会議というものがあって、今後どうするのかというようなきちんとした議論こそ必要でしょう。

 学問の自由といえども、例えばゲノムに関する課題のように制限されなければいけない場合はあるわけですし、また、科学や学術は万能ではないものの、人が真剣に考えて学説として打ち出したことや、それに基づいて意見を言うことの意義なども、あらためて考えたいものです。

 長年続いてきたマルバツ式のような教育も、戦後75年が経過してようやく「主体的で対話的で深い」学びへと変わりつつあります。国会の場においても、賛成する側と反対する側がそれぞれ一方的な話に終始するようなあり方は、改めていく必要があると思います。

 合わせて、例えば「あの人はいい人ですか、あの人は悪い人ですか」「あの人は右翼ですか、あの人は左翼ですか」というような“分かり方”になってしまいがちな、私たちの心の中にあるマルバツ式の思考についても問い直していかねばならないと思います。


―― 本日はお忙しい中、ありがとうございました。<文中敬称略>


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