教育時報社

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≪論点≫
「地方交付金の一括交付と教育」
国からの私学助成、地方で削減・転用は許されるのか

<「きょういく時報」10.9.18 648号掲載>


 民主党の代表選挙期間中、菅・小沢両氏に共通した主張として、地方交付金の一括化の問題が取り上げられていた。予算組みから政策まで、地方自治体の裁量と自己責任により政治を行う、ということだろう。だが、地方における現状をみるかぎり危惧を感じる点もある。

 例えば、大阪市と大阪府の問題もそのひとつだろう。「広域行政の非効率」を盾に、政令都市の大阪市に対して、その政策論を真っ向から否定する府知事の姿は、平松市長を選んだ大阪市民に対して知事の持論を押し付けようというに等しい。

 また鹿児島県阿久根市では、市議会に諮(はか)らず市長の専決処分が横行し、県が注意する事態まで起きている。「地方主権の時代」と言われる反面、住民の意見を反映した民主主義的な政策決定と実行の器量があるのか、疑問を持たざるを得ないケースが目につくようになっている。

 これまでの地方行政をめぐる話題を見ても、今後、地方自治体同士の紛争的問題が出易くなるのではないかと懸念される。

 さらに、大阪府では独自の問題としてもう一つ、高校無償化に伴う私立中学校・小学校に対する私立学校経常費助成金のカットが検討されているという由々しき問題がある。



私立小学校・中学校の
存在価値は大きい



 全国でもワースト1・2位の不登校、高校の中退率を出している大阪では、きめ細かく子どもたちを育成する上でも、私立の小学校・中学校の存在価値が大きい。

 今年2月、大阪府で知事と私学保護者との対話集会が行われた際、「年収500万円以上の保護者に対する学費の無償化は、400億円から500億円という費用がかさむこともあり難しい」と知事が発言した。それからわずか数ヵ月後、「年収680万円まで無償化したい」とメディアに語っているが、発言内容が急に変わった背景には何があったのか。

 私立学校に対してはこれまで、全国一律に私学助成が実施されてきた。このうち私立小学校と私立中学校への補助分をカットし、浮いた財源約64億円を、私立高校に子どもを通わせる「年収680万円」までの保護者への学費無償化に転用する考えだったらしい。

 が、さすがに保護者や私学関係者、議会などの反対にあい、私立高校学費の無償化は「年収680万円」までのラインが、いまや「年収500万円」のラインにまで再考となったようだ。



国からの私学助成
地方で削減・転用は許されるのか


 京都府では、国からの就学金(全国一律)11万8800円と府の学費軽減5万円の計16万8800円が、年収1200万円程度までの世帯に学費補助される。

 さらに年収350万円までの世帯では府内平均授業料(約65万円)まで実質無償化を図り、かつ各市町村と各私立高校においては独自の奨学金制度を実施するという、極めてわかり易いやり方で、幅広く無償化を実施していこうという方向性が打ち出されている。

 全国の自治体の中でも「予算に占める教育費の割合が低い」とされる大阪府だが、それにしてもこの春、「年収500万円までの無償化」について、大阪府の私学課長が試算で語っていた「400億円から500億円」の財源を大阪府は一体どこから捻出するのか。いまだハッキリしない。

 国が三分の一を負担する私学助成金については、予算化の段階で、私学に対する経常補助と保護者に向けての私学授業料軽減助成に、それぞれどのくらい必要か積算されているはずだろう。

 そうしたプロセスを全く無視して、地方自治体の首長の専権事項として、独自で私立学校への経常費助成を減らし他に転用することは、他の自治体との間で教育の質に大きな格差を生むことになり、「教育の機会均等」を失うことにもなる。

 そうした意味でも安易な各地方自治体への交付金の一括化は慎重にしてほしいものだ。



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