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≪インタビュー≫

「危うい憲法改正への道程」
東アジアの安定に暗雲


<「きょういく時報」14.1.8 708号掲載>




フリージャーナリスト
三宅 勝久 氏


―― 自衛隊組織に内在するいじめや自殺、東電、サラ金問題など矛盾をはらむ深刻なテーマを取材されてきたジャーナリストとされて、特定秘密保護法案の国会通過をどうお感じですか。

三宅:取材活動は確実にやりにくくなるでしょう。公然と口封じが行われていくのではないかと懸念しています。


 言論の自由、取材や表現の自由は民主社会の根底をなすものです。

 日本国憲法第21条で「表現の自由」が保障されていますが、この「表現の自由」が、憲法の定める立法システムを使って壊されています。

 国民主権を剥脱するような違憲立法もどんどんつくり、民主主義のシステムを内側から壊している。憲法を踏みにじって国民から主権を強奪しているのですから、裏切り、クーデターですね。

 立憲主義はヨーロッパで生まれた政治思想です。専制君主から民衆が主権をもぎ取る歴史があります。「王様の悪口を言っても殺されない」社会にするための政治思想です。

 大前提は言論の自由です。

 権力は必ず腐敗します。繁栄した権力は戦争や虐殺を引き起こして人類の脅威になります。だから分散させて互いに監視させ、暴走と腐敗を防ごうというアイデアです。

 権力監視がいかに大切かが、日本には根づいていないのだと痛感します。



「国民には主権などありません」



―― 憲法改正への動きについては。

三宅:
自民党の言っている「憲法改正」は、改正などではありません。現在の憲法を壊すことこそが狙いです。

 国民主権、平等、言論の自由といった国民の権利を保障し、権力の暴走を止める役割をしている日本国憲法を「改正」して、「国民には本当の意味での主権などない」「国民の権利は制限されている」「言論の自由には制限がある」といった、立憲主義とはおよそ相容れない国民を縛るものにすり替えようとしています。

 特別秘密保護法もそうですが、現在ある法律のなかには憲法違反のものがたくさんあります。

 将来、政権交代が行われた場合、または裁判所が違憲判断をした場合など、こうした違憲立法は廃案になる可能性があります。

 しかし憲法自体を壊してしまえば、もとの「合憲」状態にしようとしてももうできないということになりかねません。権力の暴走を食い止める重要な役割を担う憲法を壊すというのは大変なことです。


―― 日本には戦前も治安維持法がありましたが。

三宅:「不都合だから逮捕する」「拷問やって殺す」といったことが平然とやられていました。

 表向きは立憲主義ですが、その実は官僚独裁の超然主義でした。国民が選んだ議会に力はありませんでした。こういう政治状況で「治安維持法」という法律の名において無法行為が吹き荒れたのです。

 日本には、言論の自由や主権を自分たちで勝ち取った歴史がありません。しかし19世紀の日本には、市民憲法の獲得をめざした人が存在したことも事実です。

 植木枝盛という人が非軍事的で民主的な憲法草案を作っています。こうした明治初期の民主化運動は苛烈な弾圧によって挫折し、およそ立憲主義・民主主義とは遠い明治憲法が公布されてしまうのです。植木氏のような市民憲法の確立をめざした先人の英知をいまこそ学ぶべきです。

 大日本帝国憲法は多くの欠陥があります。しかしそれでも一応立憲主義でした。ところがそれすら骨抜きにされて壊されていき、日本は戦争に突入して破滅しました。

 日本国憲法をめぐっていま起きていることと、明治憲法崩壊の歴史はとても似ています。



沖縄返還とは…



―― 今回の法案成立が急がれた背景には、尖閣をめぐる中国との駆け引きもあったといわれているようですが。

三宅:1945年9月2日の降伏文書には、日本は米英中国など連合軍に無条件降伏し、日本の領土は主要4島と連合軍の定める島だと明記しています。尖閣諸島が問題になるのは1972年の沖縄返還以降です。

 沖縄と一緒に尖閣諸島がついてきたというのが日本政府の言い分です。しかし中国は「台湾の一部」だとして中国領土だとずっといっています。それが、中国との棚上げ合意によって争いを避け、日本が実効支配してきたのです。

 ここで重要なのは米国です。アメリカは尖閣諸島の帰属についてはこういっています。「施政権(実効支配)は日本にあるが、領有権についてはどの立場もとらない」。中立です。

 世界中で尖閣が日本の領土だといっているような国は日本以外ありません。国際社会が認めていないものを、日本が武力によって「守る」ことなどできるはずがありません。

 尖閣を日本の領土にしたいのなら、大メディアはこの肝心な点をうまく伝えていないようにみえます。


―― わからないから書けないのか、知っていても書かないのか…。

三宅:両方あると思います。あるいは記者クラブを通じて役所からネタをもらって書いているうちに、本当かウソか見抜く力が失せているのかもしれません。

 日本の民主主義が正常に機能して平和であってほしいと世界中の人が望んでいます。地球規模で共感・連帯すれば、特定秘密保護法案を廃案することだってできるはずです。



―― ありがとうございました。<文中敬称略>


三宅勝久氏プロフィール

 
フリーカメラマンとして中南米・アフリカの紛争地などを取材、『山陽新聞』記者を経て2002年からフリージャーナリスト。「債権回収屋G野放しの闇金融」で第12回『週刊金曜日』ルポルタージュ大賞優秀賞受賞。2003年、同誌に連載した武富士批判記事をめぐって同社から1億1000万円の賠償を求める訴訟を起こされるが最高裁で武富士の完全敗訴が確定。不当訴訟による損害賠償を、同社と創業者の武井保雄氏から勝ち取る。『日本を滅ぼす電力腐敗』『自衛隊員が泣いている〜壊れゆく“兵士”の命と心〜』『債鬼は眠らず』など著書多数。


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