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≪緊急インタビュー≫

「危うい日本の民主主義」
バランス欠く三権分立


<「きょういく時報」13.12.18 707号掲載>




ニューヨークタイムズ 東京支局
マーティン・ファクラー 支局長


――メディアとして、秘密保護法をどう見られますか。

ファクラー:多分、今一番注目されているところは「どういうチェックシステムと機能」があるかということだと思います。

 現時点での法案を見ると、それぞれの政府機関の長が「特定秘密を指定できる」と書いてありますが、その指定が正しいかどうか、例えば本当に国の安全保障のためになるのかを正しく裁量することまで含め、監視ができるのか気になるところです。




――政府・自民党は内閣府などの政府機関に情報保全監察室や情報保全監視委員会などを作るといっていますが。


ファクラー:
それでは「国民のため」に判断するという中立的な機能は果たせません。仮に御用学者など“政府の身内で決める”といったところで説得力は乏しいでしょう。

 本来ならば、メディアの人や弁護士の方など、それも“本物の第三者”が入った上で、それなりの権限を持って関与するべきであり、大雑把なことだけ決めてそれでOKというならかえって危険で、無意味です。




ジャーナリストの定義は



―― 研究者やフリー・ジャーナリストの取材にも大きく影響を及ぼしそうですが。

ファクラー:
当初、ジャーナリストの取材行動は保護されると言われていたようですが、少しずつニュアンスが変化してきていますね。

 それとジャーナリストの定義もあいまいです。

 記者クラブに属する人間だけなのか、フリーのジャーナリストは入るのかどうか、大学の研究者やリサーチャーはどうなのかなど、ハッキリしていません。

 記者クラブという大新聞の既得権益だけが保護の対象というのであれば、あまり意味があるとは思えません。




―― 秘密法案の目的も今ひとつハッキリしませんが。


ファクラー:
法案の方向性というか基本的部分が明確でないですね。

 例えば「国の安全保障のために、ある程度までの秘密が必要である、でも最低限に抑える」といった考え方もあれば、逆にそれを官僚の裁量に任せて、秘密をいっぱいつくるといった全然別の方向性もあります。

 もし、官僚が自分たちの裁量を拡大して権力を強化しようというならば、日本の民主主義にとって決して良いことではありません。




日本の国会・米国の議会
力量に格差



―― もうひとつ気になるのは、すべての公文書が法律によって国立公文書館で保管する権限を与えられている米国と、いとも簡単に公文書を“なかったこと”にできる日本のお役所との格差ですが。


ファクラー:
公文書の取り扱いの法律も今度日本政府でつくるらしいですが、その関連で出来る委員会が、そうしたことを保護する力があるかどうか、未知数ですね。

 日本より厳しい情報管理をしているといわれる米国政府でも、スノーデン氏によって、未知の記録があれだけ明かにされたわけです。

 ただ、米国の場合は議会がかなり強い力を持っていますので、ある程度“秘密”を見る資格なども与えられています。

 日本の場合は国会があまり大きな機能を果たしてないように見えます。内閣とは違う国会があまり大きな役割を果たさず、ほとんど行政側でやってしまうというのはバランスに欠けたやり方です。

 総理大臣の権力を増大させたいのなら、それに似合うだけの権力を国会も持たねばなりません。

 バランスが傾くと、国会がチェック機能としての役割を果たせなくなり、三権分立が崩れます。




―― これから日本国民は、何を見つめ、どのような行動をしていけばよいと思われますか。


ファクラー:
これから特定秘密保護法の細目が決められていくらしいですが、重要なのは、あいまいな表現を許さないことです。

 裁量の範囲が拡大してしまわないよう、秘密の定義を明確に、かつ具体的に知る必要があります。

 「秘密は最小限にとどめる」ことが本来、特定秘密保護法のスピリット、“魂”であり、国政選挙の投票行動によってその意志を表すことが国民にはできるのです。


―― ありがとうございました。<文中敬称略>


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