―― 情報公開法は民主主義にとってどのような機能を果たすのでしょうか。
フュークス:情報公開法(FOIA)は、政府が一体何をやっているのかについて国民が情報を求め、現実的に政府に対して請求することができる法律です。
言い換えればFOIAを突き動かす牽引役の一つが民主主義といえるでしょう。
国民は納税者ですから政府に対して情報を求めることができます。政府は国民に奉仕する立場であり、国民が政府に奉仕をしているわけではありません。
アメリカでは、国を動かすリーダーを選ぶのが国民であり、きちんと仕事をしなかったリーダーは再選が望めなくなります。
アメリカの建国にまつわる様々な文書の中には「国民は情報を得る必要がある」との記述が多く見られますが、FOIAはまさに民主主義を機能させるために存在しているのです。
―― 民主主義を守っていくために、国民としてどのような行動が求められますか。
フュークス:まさに選挙権を行使することだと思います。
アメリカの憲法では、選挙権が最も重要な国民の権利の一つとされています。
例えば、ある有権者が何らかの疑問を抱いた時、自分の選挙区から選出された議員に直接電話をしたり手紙を書いたりしますが、そうした行動は政策決定に影響や効果をもたらします。
また報道機関によるレポートも民主主義を担保する上で大きな力となるでしょう。報道機関が様々なことを論じる権利はアメリカの憲法で守られており、政府に関連するトピックなどは政策にまで影響を及ぼす場合もあります。
―― FOIAによると外国人も情報公開請求が可能となっていますが。
フュークス:その点は特記すべき特徴の一つだと思います。
そもそもこの法律は、政府を常に“誠実な政府”として守ることをめざして作られました。
皆が政府を常に見ていると注意喚起するためにはFOIAの適用範囲をなるべく広くすること、誰が請求しているのかによって差別をしないことが重要だと議会は考えたのです。
また、アメリカは世界全体に対して非常に大きな影響を与えており、異なる視点から様々な質問や請求を受け入れる必要があることも理由の一つでしょう。
―― 情報公開に当たっては、利益の対立やプライバシーの問題なども出てくると思いますが、判断のプロセスなども含めてお聞かせ願えますか。
フュークス:FOIAのもとでは、それらのバランスが問題になります。つまり、プライバシーに比べて公共の利益がより大きいかどうか、そして情報を公開した結果、意図せずにプライバシーの侵害が起こり得るかどうかが判断基準となります。
裁判所の法律解釈では、公開によって政府のある活動や運営に対してあらたな光を当てる結果になるのかどうかが一つの観点となりますが、プライバシーの問題では線引きが難しいところです。
判断についてはまず当該政府機関が行い、裁判に持ち込まれれば裁判所が行います。
ここで、ある事例をご紹介しましょう。フロリダで起きたハリケーンの後、被害が大きかった一部の地域で、実際に被害がなかったのに連邦組織を通してかなりの額の援助資金が提供されていたという出来事がありました。
ニュース機関が、補助金の配られた世帯に関する情報を請求したところ、郵便番号を通して事実が確認されたというものです。
政府機関では、世帯側に予期しなかったプライバシー侵害が生じたと訴えましたが、ニュース機関側ではこれはニュースであり、またこの件で連邦のお金が使われていたことは確かである上に、不正な形で使われたかどうかを発表することが公共の利益になるとの見解を表明しました。
結局、控訴審では、援助資金を得た世帯の住所を公表すべきだと判断されました。
“記録がない”日本の省庁
―― 日本の情報公開法にも問題点がありますが ――。
フュークス:「記録がない」あるいは「法律の対象となっている記録がない」といった反応も多いとうかがっていますが、補助的な法律を作って政府側の対応をよりよくしていくのも一つの方法だと思います。
どのような記録が存在するのかを国民にもっと周知したり、記録の維持管理を強化することも必要でしょう。
また、ユーザーあっての法律ですから、できるだけ多くの人が情報の開示請求を行うことも大切です。それが政府への啓蒙活動になりますし、十分な回答が得られなければそのこと自体をまた公表すればよいのです。
要は、公開を促す措置を引き続き進めていくことではないでしょうか。
―― ありがとうございました。<文中敬称略>