2025(令和7)年の新春を迎え、謹んで新年のご挨拶を申し上げます。
和歌山県では、令和7年4月に和歌山市立夜間中学、翌年令和8年4月に県立夜間中学を開校するため、現在準備を進めています。
さて、一般的に夜間中学とは、市町村や都道府県が設置する中学校において、夜の時間帯に授業が行われる公立中学校のことをいいます。戦後の混乱期には、生活が大変で、中学校に通う年齢の人の中には、仕事や家事手伝いなどで中学校へ通うことができなかった人がたくさんいました。
そこで昭和20年代初頭、そういった人たちに義務教育の機会を提供できるように、仕事などが終わった後、公立中学校の二部学級という形で、夜間学級を設置したのが夜間中学の始まりであるといわれています。
きのくに学びの教室と夜間中学
本県においては、平成28年12月にいわゆる「教育機会確保法」が成立したことを受けて、年齢や国籍に関係なく学べる機会を提供することを目的とし、令和元年9月に県内4つの定時制高校内で、「きのくに学びの教室」を開講しました。
和歌山県内に住んでいる社会人で、中学校までの学習を学び直したい人、日本語が不自由で生活に困っている人を対象に、「よみかき・生活」、「日本語・生活」、「基礎国語」、「基礎数学」、「基礎英語」などの講座を無料で実施しています。講座の内容としては、生活に必要なひらがな、カタカナ、漢字の読み書き、やさしい日本語、中学校程度までの国語・数学・英語を学習しています。
しかし、令和2年国勢調査において、和歌山県には未就学の方が549人、最終卒業学校が小学校の方は8737人、それも特定の市町村や地方に偏っているわけではなく、県内どの地方においてもそのような方がいることがわかりました。
そこで、「きのくに学びの教室」は今まで通り継続しながら、さらに、多様な背景をもった人たちの学びたいという願いに向き合うため、夜間中学を設置する必要があると考えました。
関連機関との連携を大切に
この夜間中学を、和歌山県に設置するにあたり、各関係機関との連携は当然大事であると考えています。自主夜間中学、識字学級、地域の日本語教室、人権啓発団体、引きこもり支援、若者支援団体、マスコミ等々、連携すべき関係機関はたくさんあります。
その一つとして、昼間の中学校との連携は大切です。例えば、中学校で不登校だった生徒が、中学校を形式的に卒業するというケースがあります。そのような生徒にとっても、夜間中学は進路選択の一つとなります。
夜間中学の修学期間は基本3年間ですが、2年生、3年生からの編入も可能としているため、不登校の生徒が中学校卒業後に夜間中学で1~2年間、中学校の学習を行い、基礎的な力を身に付けた上で高校受験を行うこともできます。
他府県においても、定時制高校への進学や県立の総合看護学校へ入学したという実績も伺っています。そういうことを中学校の先生にも知っておいてもらいたいと思いますし、対象生徒や保護者にも周知していくことが大切だと考えています。
また、ご存じのとおり夜間中学は日本語学校ではないため、日本語の習得のみを目的とするものではありません。地域の日本語教室や学びの教室といった機関等において、ある程度日本語を習得しつつ、夜間中学で日本の中学校の学習をすることも考えられるため、そういった機関等とも連携を深める必要があるといえます。
多様な学びの選択肢を
夜間中学で今後の課題となるのが、学齢期の不登校生徒との関係でしょう。しかし、先ずは、夜間中学の元来の趣旨に照らすことが必要で、不登校とは切り離して考えるべきだと考えています。
不登校の状態にある生徒たちはそれぞれ学校に属しているので、いきなり夜間中学で受け入れようとはなりません。けれども、学びの機会が失われることは絶対に避けたい。そこでまず、在籍校に通えるようになるのが一番自然だといえますが、難しい場合は、教育支援センター、他地域の学校などがあります。さらに家から出ることが困難な場合には、オンライン学習もあります。少し歩みを緩めている生徒には、いろいろな学びの場があるから顔を見せてほしいと声をかけたい。その上で、夜間中学も一つの窓口になると考えられます。
しかし、夜間中学の認知度はまだまだ低いため、教育関係者、地域の方々、多くの関係機関の方々にもっと周知していく必要性を感じています。和歌山県教育委員会としても、昨年、「夜間中学フォーラム」、「体験授業会・個別相談会」等を実施してきましたが、今後も引き続き、周知していけるような取組を行っていきたいと考えています。
多様な背景をもった人たちの学びたいという願いに寄り添い、幅広い教育を和歌山県の皆様と共に考え、共感してもらい、広く普及し、多くの方に声を届けていけるよう全力を尽くしてまいります。
結びにあたり、今年一年の皆様のご健勝とご多幸をお祈り申し上げます。
※以上全文掲載
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