―― 中学校の部活動をなくすかわりに、新たな地域クラブ活動を整備する動きになっていますが。
和田:従来から、外部の指導員の方がクラブ活動に関わるケースは見られましたが、さらに外部に任せて、学校ではクラブ活動を行わない、少なくとも指導はしないという形に持っていこうという方向性です。それぐらい大胆なことをしないと、先生方の働き方改革は難しいという事情も一方にはあるのでしょう。
―― 神戸市でも2026年9月以降、中学校の部活動が地域に完全移行されるようですが。
和田:公募で委託先を集め、参加費用については、部費や遠征にかかる交通費など従来から個人負担になってきたのと同程度の額が想定されているようです。委託先が揃うかどうか、など課題もあるとは思いますが、これまで学校では出来なかったような類の運動や文化活動に、学校外で取り組むこともできるのでは、との声が聞かれます。
兵庫県内では、ほかに姫路市でも2026年9月以降、独自の取り組みがスタートすることになっていて、2028年度から公立中学校の部活動を地域に完全移行する方針が明らかにされています。
―― 私立中高の対応については ――。
和田:公立の今後の動きにも左右されるでしょうが、今のところ従来通りの取り組みを続けることになろうかと思います。スポーツでも文化活動でも、大会に参加することは一つのモチベーションにもなるわけですが、目標がなくなればそうしたモチベーションも乏しくなることは否めないでしょう。
一方、市や県の上位レベルの大会などは、公立校のクラブ活動顧問の先生方が中心となって運営されてきました。大会のあり方を含め、新たな制度設計が見えない中、今後どのように変容していくのか注視したいと思います。
重要性増す私立学校への経常費補助
―― 私立高校に対する経常費補助は、大阪の場合、国が定める生徒一人当たりの単価も下回る状況です。
和田:私学の経常費補助を上げていただきたいというのが、やはり共通した意見だと思います。高校の授業料無償化などもありがたいですが、保護者の負担軽減と合わせて、私学本体の経営基盤を支えるための補助金すなわち交付金から出ている経常費補助をしっかり上げていただく必要があると思っています。
経常費補助を大幅に減らして、保護者負担の軽減に回すというやり方では、私学として立ち行かない状況にもなりかねません。総額が決まっている中で“こっちに多く出すならあっちで減らす”というようにバランスを取り合う性質のものではないと思うのですが。
無償化をめぐる国の政策論議が今後どのように進んでいくにしても、経常費補助を削減する形での無償化推進という流れにならないことを願います。
ちなみに私学助成の根拠とされる「私立学校振興助成法」には、私立に対する国や自治体の教育支出について、公立に対する公的教育支出の1/2を目指すと書かれています。
この法律はずいぶん前に議員立法で成立したものですが、「1/2」のレベルは未だ達成されていません。まずはこの段階まで尽力をいただいた上で、保護者負担の軽減へというのが筋ではないでしょうか。
先進7ヵ国の中でも低い
教育分野への公費支出の割合
―― 私立中高では公費負担も大きな課題となっているようですが。
和田:大阪では、授業料が63万円を超える部分は学校側の負担になるという全国唯一の‟キャップ制”がとられています。所得制限もなくなりましたね。
ただ、私学の授業料というのは、各学校がその教育を進めるために必要と定めている額であり、監督官庁への届出制になっています。もとよりキャップをかけて指導する筋合いのものではないはずです。
また、大阪の場合は「授業料」とされる63万円の中に「その他の経費」も含まれています。ちなみに東京都の無償化制度では「授業料」の48万円は文字通り純粋な授業料であって、例えば設備費や維持協力金といった「その他の経費」にあたるものは、授業料とは別に保護者が納入する形になっています。
要は、何をもって授業料無償なのか、そこをはっきりさせた形で議論する必要があると思うのですが。
国として、全国の私学において本来の授業料部分についての無償化が行われることになれば、大阪の現状もまた変わっていくかもしれません。
―― 国と自治体が教育にかける支出の割合は、OECDの比較の中でも平均を下回るレベルですが。
和田:幼稚園や保育園等も無償化されましたが、一方で先生になる人は減っており、同様の傾向は小・中学校でも見られます。
高等教育への配分は最も多いわけですが、他国に比べれば教育や学術研究分野で相当見劣りするでしょう。例えば5年間で研究成果を出せないと助成そのものが打ち切られたり、雇用形態も5年間の特任という現状では、‟思わぬ発見”に出合う機会や、まして長期間を要する基礎研究の成果なども自ずと減っていくのではと懸念しています。
突き詰めた論議と思い切った構造改革を
―― 少子化における小中学校の教育環境についても、突き詰めた論議と対策が待たれますね。
和田:例えば、先進国の中でこれほど1クラスの人数が多い国はなかなか見当たらないでしょう。海外では1クラス10人、12人が普通だったりするところも見受けられます。要は、思い切った構造改革ができるかどうかだと思います。
―― 私立中高では引き続き、男女別学から共学化への流れもうかがわれますが。
和田:少子化はもとより、ジェンダーレス、ボーダレス社会の流れに思い切って踏み出していかれるのもやぶさかではないと感じています。阪神間においても、昔からあった男女別学文化といったようなものが少しずつ崩れつつある気配もうかがわれるようです。
社会性を育てるために
―― 不登校の問題では、コロナによる休校が引き金になった、とも言われますが。
和田:確かに引き金にはなったと思います。ただ以前から、学校へ行きたくないという気持ちを持っている子どもたち、あるいはそういう時期がそれぞれにあったのかもしれませんが、それでも「他の子は行っているのに」というような同調圧力の強い社会から、一人ひとりの個性を生かすように変化してきた、それが一番大きいのではないでしょうか。
それと、お子さんの数が少ない家庭がほとんどになって過保護ともいえる状況が広がっています。また、共働きの世帯も非常に増えており、子どもたちにとっては放課後に地域の友達と遊ぶ経験もなかなかできなくなっています。そうなると、集団で過ごす中からごく自然に培われてきた疑似社会体験が失われ、結果的に社会性が育ちにくくなっている現実もあると思います。
基本的に自我が目覚めてくる時期、それよりも前に社会性が身についていなかったりすると、どうしてもうまく周りに入っていけない、あるいはちょっとしたことが気になってしまう。それで学校を休みがちになってくると、周囲も何とかしたいと思うけれども、「登校を強く促す指導は必ずしもよくない」という流れの中で、学校としても保護者や専門家の指導に任せる形になる。一度休みがちになると本当に出てきにくくなるわけです。
その時に、今まででしたら、家でいわゆる引きこもるしかないような感じだったのが最近はそうでもなくて、学校へは行きにくいんだけれども、他にフリースクールもあればオンラインでもいろんなことができますから、学習だけなら、何も行きにくいところへ行かなくても…、となるのかもしれません。
いずれにしてもなかなか判りにくいところはあります。
―― いずれ社会に出ていくときに、従来よりも課題や負担が大きくなってはいないか、気になるのですが。
和田:であればこそ、「高校へ来たらまた変わるかな」という気持ちをもって、公立私立を問わず、皆と一緒に通える学校へ一旦は進学してほしいなと思います。
現実には、最初から通信制高校を選択する方も年々増える傾向ですし、学校側もフレキシブルに受け入れてくれるようになっているわけですが、そうした中、「通信制高校は、生徒80人に対して一人の教員が必要」とする規定が設けられることになりました。
それでも全日制の学校から見ますと正直疑問を感じますし、全日制の一般的な学校の課程と比べたときに、高校の学習課程が本当に身についたかどうかが気になります。
もう一つ、子どもたちが、大変なその時期をそのような形で乗り越え、高校卒業の資格を得ていよいよ社会に出ていく、あるいは大学に進学するというふうにつながっていくならそれはそれでいいと思う一方で、実際に卒業までいった人々がどのくらいいるのか、さらには卒業後の社会との繋がりなどももっと見える形にしていただく必要があると思います。
兵庫ブランドの私学連携を創造
―― 最後になりますが日本の教育とグローバル化の課題について。
和田:国際交流においても大きな遅れが生じています。例えば海外大学のトップ校では、優秀な先生方を国外からも積極的にスカウトしています。
1年間のスパンで来ていただくのが難しい場合は、半年ずつに分けて行き来してもらえるようにしたり、標準とは異なる特別な報酬を用意したり、場合によっては住居も提供するなど極力便宜が図られています。
一方、日本の国公立大学には、客員教授の報酬が専任教授を超えてはならないルールがあり、こうした点もガラパゴスというほかないでしょう。
その点、私立大学はある程度フレキシブルに対応できますので、国公立大学でそれなりの成果を上げられた中堅の先生方が私立大学に引き抜かれていく例も見られるようになってきました。
―― 兵庫の私立中高連におかれては、県内私学ならではの特色を、独自のネットワークを通して構築していこうとの動きが始まりつつあるようですが。
和田:兵庫の私立中高連では、これまでにも例えば“兵庫私学の学び場”と題して、各界の方々を招いて講演していただいたり、分科会の形で交流を深めたりしてきました。
同様の催しをさらに発展させながら、私立中・高と私立大学、また私立中・高同士、さらには私立大学同士の有効な連携を、様々な形で後押しできるものと考えています。
―― お忙しい中ありがとうございました。<文中敬称略>
(学校法人灘育英会理事・灘中学校灘高等学校参与)
(お詫びと訂正)
本文中、インタビューの質問が一部入れ替わる誤記がございました。訂正のうえ掲載させていただいております。誠に申し訳ございません。 |