先ごろ、東京電力の内部調査委員会が報告書を明らかにした。今回の福島原発をめぐる事故は“想定外”の不可抗力だったとして、他人事のように責任を逃れようとする東京電力の姿勢が浮き彫りになっている。
日本には、東電を含めて現在9つの電力会社がある。それらの役員人事をめぐる利権構造が、『日本を滅ぼす電力腐敗』(新人物文庫)と題した著書で明らかにされている。著者は、フリージャーナリストの三宅勝久氏。
経済産業省から電力会社への天下りは、戦後約60人にのぼるという。しかも東京電力や東北電力など多くの電力会社では、地方議員が社外取締役を兼務する“マッチポンプ”の実態もあるようだ。
また同著では、伊方原発の設置をめぐる住民訴訟を担当した裁判官が、後に電力会社の取締役に就任した事実も述べられている。住民からかけ離れた地域独占企業、電力会社の役員人事の実態は、まさに“腐敗”と言うほかない。
経済産業省からの天下り官僚が、原発への過信を口にしたり、原発のメリットを強調したりする背景にあるのは、「わが国のエネルギー政策」という高度な問題ではなく、天下り官僚や、自民党を中心とする地方議員の個人的利権がそこにあるからではないのか
――。国民の率直な疑問が、裏づけされた格好だ。
これまで大手マスコミによって明かされることのなかった電力会社役員人事の実態を、著者は重厚な調査取材により、事実として書き上げている。重い事実と共に、興味深い資料としても貴重といえる。
中立性を求められる立場にありながら、自分の退官後の生活に最大の関心を払う裁判官。このような日本の権力構造の一角にも、大きな問題が潜んでいると思う。<N>
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