全国的にも珍しい私立高校側の授業料負担による“無償化”システムを、大阪府の吉村知事はあくまでも押し通すのだろうか。
大阪府の公立高校では令和4年度、税金で賄われる生徒一人あたりの教育費は約108万円だった。これに対して私立高校は約73万円と、公私間で約40万円近い格差が生じている。
吉村知事が考える全所得層対象の私立高校授業料無償化は、実質的に私立高校の教育費をさらに削減し、それを原資の一部とした上で、全所得層を対象に私立高校の無償化を図ろうというもの。
私立中学校高等学校の保護者らで組織される大阪私立中学校高等学校保護者連合会の松井次郎会長は、「保護者にとって耳ざわりのよい“無償化”の言葉ばかりが先行している。しかしながら、今回の(吉村知事の)無償化案は、結果として子どもたちに不利益をもたらすことが懸念される」と語っている。
大阪府では一方的に、いわば授業料を値切るような形で『標準授業料』が設定されている。授業料の設定がその金額を超えた私立高校では、高額所得層についても学校側が差額を負担することになる。
一方、大阪私立中高連(辻本賢会長)では、かねてより大阪府に対し、教育のIT化に伴う施設設備充実のための助成に関し、会長名で要望書を提出しているが、 “なしのつぶて”状態が続いているという。
保護者連・松井会長は、「私立高校が教育内容や質を維持できなくなれば、今まで通りの教育を受けることができなくなる不安が生じる」と、成り行きに懸念を示している。
また、大阪から他府県の私立高校に進学を希望する生徒もいることから、無償化の問題は、他府県の私立高校にも当然影響が出てくるはずだ。
各私立高校では、各自治体の私学行政政策と私学団体・私学経営団体との話し合いを持ち、学校経営の調整が図られている。そうした中、今回の大阪府のやり方は、「ほかの自治体の私学行政を侵害するもの」という意見もある。
今年の地方選挙で日本維新の会の支援を受けた知事が、兵庫県に続き奈良でも誕生した。大阪府では、これまで閉ざしてきた「他府県の私立高校に通う生徒」への助成も新たに始める考えで、 教育の完全無償化を「国に先がけて」目指す意図が見える。
その中で打ち出されている大阪公立大学の府民無償化問題に関しても、「大阪出身の学生の費用を、他府県からの学生らに負担させるのは不公平」という声が聞かれる。
今秋にも予想されている衆議院選。「私立高校の無償化」は、またもや看板となるのだろうか。<N>
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