文科省は11月1日ようやく民間英語テストの実施延期に踏み切った。これまで再三にわたり、全国高校長協会(会長・荻原聡東京都立西高等学校校長)が制度の見直しと実施延期を訴えてきた中、重い腰を上げた。
全高長協は9月、文科省に対し、実施延期に関する要望書を提出している。文科省側から全高長協への返答は、10月18日付、高等教育局伯井美徳局長名による「令和2年実施する」旨の文書だったとされる。
今回の共通テスト化に伴う民間英語テストの実施については、当初から制度設計に無理があり、大学関係者や高校の英語教育関係者らから問題点を指摘する声が上がっていた。文科省には、少々無理があっても走りながら修正していけばよいといった安易な気持ちがあったのではないだろうか。文科省の事務方と萩生田文科大臣との意思疎通が図られていたかどうかもあやしい。
民間英語テストの採用については、EU地域に住む人々(ラテン語系)が英語を習得するための評価であるセファール(CEFR)と、日本の各民間英語テストに評価の相関性があるのか ―― という問題が当初から指摘されていた。相関性の検証は、行なわれていないということである。文科省は、学者など多くの人々からこの問題を指摘されていたにもかかわらず、今なお放置したままだ。
文科省では有識者会議や審議会が持たれたものの、経財界や民間英語テスト会社の関係者など、その分野では素人の人々でメンバーが構成されたとのことである。大学や高校など現場を知る当事者の参加を抜きにした有識者会合や審議会では、現状把握と対応策が詰められないのも当然だろう。学生や生徒たちを教えるのは、もとより文科省の官僚ではない。
このような人選も、省庁に任せるだけでなく、国会の各委員会においてのチェックが必要かつ重要ではないだろうか。各省庁の権益や独走を抑える上でも是非実現してもらいたいものだ。
また、英語の4技能(読む・聴く・話す・書く)が重要だといわれる。「グローバル化に対応できる人材を」という財界の強い要望も背景にあると指摘する教育関係者もいる。が、昨今、全国の高校では新たな英会話学習システムの導入や、高校間の交流、語学研修などにより、昔とは違って英語で「話す」機会も増えてきた。高校でも大学でも英語を「話す」技能については各段階で積み上げが工夫されている。
一方、「読む、聴く、書くという3つの技能に習熟できなければ、内容のある“話”は出来ない」と指摘するネイティブの教育者の声もよく耳にする。「日本人との会話では主語がない場合が多い。これは英語ではない」といった厳しい言葉も聞く。英文を読み書きする作業を通して鍛えられるのは、英語力にとどまらない。日本語と英語とを行き来する中で、実は論理性が鍛えられるのだという。「グローバル化に対応できる人材」についても、もう少し深く考えてみる必要がありそうだ。
大学入試というならば、むしろ「話す」以外の技能チェックを大学共通テストで行い、大学入試センターが中心となって作問することが必要ではないだろうか。
11月1日に記者会見した萩生田光一文科大臣は、「民間英語テスト業者による実施は令和6年度からはじめる」と語っていた。が、要は「民間英語テストありき」ではなく、大学入試センターがどこまでバージョンアップした英語共通試験を提供できるかではないだろうか。英語教育関係者の方々の論議を期待したい。
|