今年5月、経済産業省の産業構造審議会商務流通情報分科会割賦販売小委員会は「テクノロジー社会における割賦販売法制のありかた」と題整理報告の中で、割賦販売法すなわち“クレジット規制法”を「大幅に緩和する方向で検討すべき」と発表した。
これに対し、大阪弁護士会は8月7日付で「クレジットの借り過ぎ規制の大幅緩和に反対する」会長声明を出した。
平成20年当時、いわゆる“クレジット規制法”による法規制が行われるまで、日本の社会ではロー・インカマー(低収入者の人々)を中心にクレジットやサラ金の過剰債務の問題が大きな社会問題になっていた。
大阪弁護士会は平成19年当時、クレジット取引における過剰与信問題が、貸金業者による過剰融資とともに深刻な多重債務問題を生み出す直接の原因になっているとして、割賦販売法の改正を求める意見書を提出するなど、平成18年成立の改正貸金業法とクレジット取引への過剰与信規制の必要性を訴えた。
弁護士会や有志の弁護士の人々とともに、フリージャーナリストの山岡俊介氏や三宅勝久氏などもサラ金問題を社会問題として捉え報道を続けた。
当時の武富士などから訴訟を起こされながらも戦いを継続し、ようやく過剰与信に対する規制にこぎつけるなど、こうした努力が“元の木阿弥”となる中間整理報告の内容といえる。
折りしも、大阪を中心にカジノを含むIR構想が現実味をおびてきている。ギャンブル性が過度にならないような試みがされているというが、「借り過ぎ規制の大幅緩和」は着実に遂行してもらわねば…、ということか。
中間整理では「購入履歴等のビッグデータやAIによる解析技術などを活用した与信審査ができるクレジット会社では、平成20年改正による過剰与信規制を撤廃しても、データ等利用審査で間に合う」「指定信用情報機関への信用情報登録義務は引き続き課す」などとしている。
一方、この審議会小委員会の関係メンバーを見ると、㈱メルペイ・青柳直樹代表取締役、新経済連盟幹事フィンテックPTリーダー・辻庸介氏、一般社団法人フィンテック協会・丸山弘毅代表理事会長、一般社団法人日本クレジット協会・與口真三理事・事務局長、株式会社Origami・康井義貴代表取締役社長など、金融業界の関係者が多く、ユーザーや消費者側からのメンバーは含まれていない。
米中の貿易摩擦に端を発する世界経済の不透明さが増す中で、政府・日銀の金融緩和の政策も行き詰まり感はぬぐえない。
税制と所得再配分の大きな課題を残しながら、不毛な消費を増やすための小手先の政策は、日本経済を一層惨めな方向に引っ張って行く”笛吹き”の役割しか果たさない。(N)
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