教育時報社

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≪本の紹介≫

白井 俊 著
『世界の教育はどこへ向かうか』
能力・探究・ウェルビーイング
中公新書

<きょういく時報」26.1.8号掲載>




 著者は現在、内閣府の科学技術・イノベーション推進事務局参事官。2000年に文部省入省後、OECDへ出向し、世界各地の教育に触れてきたという。

 『世界の教育はどこへ向かうか』と題したこの本は、「これからの日本の教育を世界から俯瞰したレポート」であり、中教審における政策論議の骨子が自ずと浮かび上がる内容になっている。

 教育関係の人々にはもちろんのこと、教育に関心を持つ人々にぜひ手にとってもらいたい一冊だ。


 OECD(経済協力開発機構)が、各国の義務教育修了者を対象に実施している学習到達度調査(PISA)では、日本の子どもたちが世界トップレベルのスコアを出している。ただ、各教科に対する「関心」や「やる気」については、世界の平均値よりも低いのが実態だという。

 私たちは普段、教育の話をするとき、「能力」「探究」「主体性」などの言葉を何気なく使っている。しかし、その言葉をどう捉えるのか、あらためて考えてみると実は多義的で難しいことに気づく。著者は、それらの言葉が持つ意味を、世界各地の教育政策や教育実践を通して考えさせてくれる。


 主なテーマは5つ。第1章では「教育は何をめざすべきか」をテーマに、経済成長中心の世界観から、人間中心の世界観へと転換する過程で登場した「ウェルビーング」の考え方が紹介されている。今回の中教審の基本的な考え方の1つであり、OECDの2030年到達目標でもある「ウェルビーング」とは何かをつかんでおきたい。

 第2章のテーマは「主体性」。国際的見地から、必ずしも強くはない日本の子どもたちの「主体性」の在り方が指摘されている。OECDが提案する「Agency(エージェンシー)=自分で目標を設定し、振り返り、責任を持って行動する力」の概念と比較しつつ日本の「主体性」が目指す方向性を問う。

 第3章では、子どもたちに求められる「能力」とは何かを考える。伝統的な「認知能力」に加え、近年では「忍耐力」や「リーダーシップ」など非認知的能力の重要性が言われている。具体的な場面における有用性の論議もまた重要、との指摘も。

 第4章は、日本でも注目の「探究」について。有用性の国際的議論と、日本における有用性がかけ離れているのはなぜなのかを探っていく。

 第5章は、世界共通の課題でもあるカリキュラム・オーバーロードについて。「広く浅く」型か「深く狭い」型か、というカリキュラムのジレンマを解決する「第3の道」とは。関連の話題として、やはり世界の共通課題である「先生不足」とその背景に関する報告も見られる。


 「重要なことは、客観的な事実やデータに基づいて、それぞれの教育を捉え直し、その強みを生かしつつ、課題があれば修正していくという作業を丁寧に続けていくことだ」と、著者は重ねて述べている。



(『世界の教育はどこへ向かうか~能力・探究・ウェルビーング~』中公新書/白井俊著/本体900円+税)



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