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学校法人上智学院

六甲学院中学校・高等学校

髙橋純雄 校長先生へのインタビュー


少子化の中での価値のある教育


〔22.9.28号より全文掲載〕


―― 少子化時代、今後どのようなことを重点に学校運営を進めていかれますか。
髙橋: 公立高校を含めた高校全体に「スクールポリシー」が求められている時代、私立中高としては、もともと建学の精神はあるのですが、それを今の時代に適応させつつ、明確に学内にも学外にも打ち出してゆく必要があると考えています。

 どの学校も魅力ある「スクールポリシー」を打ち出す中で、少子化で、受験生の数は少なくなっていくことが明らかなのですから、私学としてこの学校のこの教育を、自分の子どもたちには受けさせたい、と選び続けていただけるような学校であるように、しなければならないと考えています。

 伝統で受け継がれてきた精神は大切にしつつ、変革が必要なところは変えてゆく必要はあると考えています。

 それと同時に、生徒やOBの具体的な行動を通して、実際にそういう生徒を育てている、これまでも育ててきた、と言える、示せることが何よりも重要だと思っています。

 例えば、OBに来ていただいて話を聞いたり、またOBの職場見学にも行ったりする中で、あるいは教師から、“こういう生徒、こういう卒業生がいますよ”ということを生徒たちに伝えていくのも大切なことだと考えています。

 六甲学院の場合は、基本的な教育精神としてFor Others, With Others(他者のために、他者と共に)、特に弱い立場にある人たちのため、その人たちと共に、社会をよりよくしてゆける人、「仕えるリーダー」の育成を目指しています。そうした生き方が、自分にとっても意義のある、充実した、幸福につながる生き方であることを、教育の中で伝えたいと思います。

 六甲学院のミッションステートメントの第一は、「自分と他者の良さを認めて、互いに切瑳琢磨して成長しあう人間関係を築きます」です。

 少子化の中で育っている生徒たちは、同じクラスメイト、学年、学年の違う上級生や下級生たちと切瑳琢磨する機会が少ないことが、よく指摘されています。生徒たちが、お互いに受け入れ合う、自己肯定感を高めあうとともに、お互いが切瑳琢磨して成長しあう学校であり続けたいと思いますし、教師はその環境づくりをし、生徒同士の高めあいを支える学校でありたいと思います。



情報教育の国際化に向け
学習指導内容の精査を
――  「情報」が今後、共通テストに導入される予定ですが。
髙橋 イエズス会の姉妹校が世界中にありますので、海外の姉妹校の教育現場を見に行く機会は、それなりにありました。

 15年前のアメリカのニューヨーク、フィリピンのマニラ、オーストラリアのシドニーなどの姉妹校の授業を見ながら、あるいは図書館を使いながら、すでに10年前にはコンピューターやタブレットを用いて、生徒主体の、個々に合わせた、探究プログラム、発表授業をしていました。図書館も本だけでなくインターネットや映像を用いて調べてゆく、アジアの学校も海外の情報を英語資料も含めて集めて分析し討議して発表をする授業をしていました。

 15年前にはすでに、アメリカに留学のために集まる高校を卒業してすぐの韓国や台湾から来た学生たちは、情報リテラシィも学習スキルも身に着けていて、大学での学習の最初から日本からの学生とは差があることを感じていました。

 ですから、私もアメリカとフィリピンの研修の後に、図書館を学習センターとして新設して、書籍資料だけでなく、インターネットからも映像からも参考資料を調べて発表に向けて話し合える場所を作りました。

 きっと、文科省もそういう日本が国際的に立ち遅れている状況が分かっていたので、「情報科」を強化し、入試科目にも導入しようとしているのだろうと思います。「情報科」を教育の中にこれまでよりも大きな比重ですることについては、海外の教育状況をある程度知っているので賛成です。

 ただ、探究型学習にしてもICT教育にしても国際教育にしても、現場が追い付いていない状況の中で、また、各教科とも学ぶべき内容が増えていく中で、受験科目として共通テストに入れることについては、生徒にとっての負担が過重すぎるので、どうかと思います。他を軽減する、受験の選択の幅を広める方向も考えないと、まずは生徒にとって、そして学校にとって、負担が増すばかりではないかと思います。



「人を育てる」学校
―― 六甲学院中高の教育の特色の一つとして、上級生の下級生に対する“学びのサポート”が挙げられると思いますが。
髙橋: 中1では2日間、2学期にも1日間、岡山・前島で「海のキャンプ」を行い、友だちづくりプログラムを体験します。高校生リーダーのもとで、いかだをつくり、力を合わせてこぐ体験をしたりキャンプファイヤーでは小グループになって高校生の体験談を聞いたり自分のことを話したりする、そうした経験が大事なのではないかと思います。

 中学1年生には、一クラスに一人、中一指導員という高校生の先輩がついて、学校生活のことから勉強の仕方から時には人生相談までするような仕組みがあるのですが、そうして常時上級生が時間も労力も愛情もかけるなかで、他者のために他者と共に生きる人の姿を最初に学びます。もちろん、勉強面での学びにもつながっているのですが、それだけでなく、生き方についての学びをしているといっていいのではないかと思います。

 それは清掃活動や中間体操、社会奉仕や訓育などの委員会活動、クラブ活動のいたるところで、今も生きている伝統といえるでしょう。体育祭の総行進を上級生が下級生を指導する中で、また、文化祭で、各クラスやグループを上級生が下級生に指導し、全体を動かしていく体験の中で、上級生はリーダーシップを学び、下級生はフェローシップを学びます。

 また、社会人となったOBも、生徒の学びを広めてくれています。心に残っているエピソードがあります。高校1年の生徒たちが、理系・文系を決めるにあたって、東京大学・法学部教授の先輩を職場訪問で訪ねた時のこと。事務室の前を通って先生の部屋に入ると開口一番、「私たちが六甲生だった頃は、“黙々と社会を支えてくれている方々に敬意を払いなさい”と教えられました。昔の六甲生なら、事務室の方々に挨拶ひとつしないで通りすぎたりはしなかったでしょう」と言われたそうです。帰り際には一人ひとり、大きな声で挨拶をしていたという報告も聞きました。OBを含め、六甲というのは人を育てる学校なのだと思います。


―― 本日はお忙しい中、ありがとうございました。<文中敬称略>


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